09 9月, 2021
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泉貴子様|東北大学災害科学国際研究所 国際防災戦略研究分野 准教授/ 環太平洋大学協会(APRU) マルチハザードプログラム ディレクター

1. CWS Japanを知ったきっかけはなんですか?

一番最初にCWSの事を知ったのは、2008年に実施したThe Global Network of Civil Society Organisations for Disaster Reduction(GNDR)のViews from the Frontlineという調査プロジェクトでした。その時、私はMercy Malaysiaとthe Asian Disaster Reduction and Response Network (ADRRN)としてアジア地域の調査のとりまとめをしていて、(CWS職員の)小美野さんと知り合いました。その時はCWSアフガニスタン事務所に居られたと思いますが、その後バンコク事務所やCWS Japanに移籍されても協働が続きました。正直、日本人の方でアフガンやパキスタンで防災の仕事をしている人に会ったのは初めてでした。私は東日本大震災後、2013年に日本に戻り東北大学の災害科学国際研究所で働き始めましたが、CWS JapanさんにはNGOの防災の取り組みや東日本大震災支援の取り組みを教えて頂きたいという事でサマースクールにも登壇して頂いています。

2. CWS Japanと連携して良かったことはなんですか?

現在、東北大学の災害科学国際研究所に属し、APRU(環太平洋大学協会)のマルチハザードプログラムのディレクターをしていますが、大学間の連携や学生との学びの場で感じるのは現場の様子を知る機会がないという事です。研究者は常にデータや文献と向き合っていますが、時に自分達のやり方、モデル、理論が全てに当てはまると考えてしまう節もあります。防災や人道支援はそうではなく、現地を知ってフレキシブルに変えなきゃいけない所が多いですよね。実際の現場で知識を使おうとしても、それだけでは通じない事もありますし、事前に現場で起きている事を知る事は大事だと考えています。なので、サマースクールやウェビナーなどで現場の体験を話してもらい、学生にとっても目から鱗のような感じで教育の深化に繋がっています。もちろんNGOと学術の連携では、新しいやり方を開発する協力もあると感じます。CWS Japanさんは、現場経験が豊富でトップレベルで国際的なNGOセクターで活躍されていますので、いつも登壇依頼をさせてもらっています。

3. 防災支援・緊急人道支援で大切にしている貴社のアプローチや課題を教えてください

以前NGOに居た時は、直接現場に居て活動が出来ていましたが、現在は学術という立場で、前ほど現場へのアクセスをする事が難しく、それがもどかしいと感じることもあります。現在、マレーシアでコミュニティ防災プロジェクトを実施しており、将来的にコミュニティ主導で防災活動ができるようになるメカニズムを確立することを目指しています。実は、防災をトップダウンでやっている国がまだまだ多いのが現状です。そういう国では住民の経験が十分に活かされておらず、住民が参加する事によって防災活動の効果が上がることを分かってもらう事業にする事が重要だと感じています。

研究者の役割としては防災のサイエンス、例えばモデリングなどの技術を活用したりしますが、でも基礎的なデータが足りない事が大きな課題です。データを平時から取っておく事が重要ですが、データに予算をかける事が出来ていない国も多く、データを取っていても開示していない所もあります。データは活用されてこそ意味があります。例えば、災害リスクの予測など、データをうまく活用すればこのような効果があるという事を知ってもらい、サイエンスがベースになれば、より良い計画、戦略につながるという事を普及していきたいです。

日本の防災経験を伝えようとしても、例えば日本が使っているハザードマップは作れない、また、これまでの洪水による浸水地域の公開や警戒区域設定は難しいと言われたりもします。日本では、一般市民のイニシアティブで防災活動が行われていたり、コミュニティ主体の訓練が行われていますが、そういう市民参加型の活動はあまり実施されていない国もあり、国によって受け取られ方も違います。日本の防災活動をそのまま踏襲するというよりは、臨機応変に、それぞれの状況、国、地域にあったアプローチで最適な防災活動を、皆で議論しながら防災に取り組んでもらう事が重要だと思います。そのためにも、住民の参加は欠かせません。

4. CWS Japanへのアドバイスや今後に期待することはなんですか?

日本のNGOで、国際的に活躍できている団体はそう多くないと感じていまして、是非そういう団体としてのリーダーシップを期待しています。日本は寄付文化があまり根付いておらず、NGOが育ちにくい風土がありますよね。海外での支援活動の現場では、欧米の規模の大きなNGOが中心となって活動を行っているというイメージを持たれる方が多いと思います。それを打破する為には、日本の中でNGOという地位を確立し、海外で国際支援のプロとして活動しているという点をもっと社会に知ってもらう必要があると感じます。NGOだけではなくて、我々の意識も変える必要がありますし、その為の材料を与える存在となって欲しいです。海外ではJICAがよく認知されていますが、日本の支援はJICAだけでなくNGO支援もあると伝えたいですよね。

例えばハザードマップも色んな国で求められていますが、特に住民にどう落とし込んでいくかが課題であると感じます。CWS Japanがアフガニスタンなどの難しい現場でもそういう活動に取り組まれている所、そして日本は防災に敏感ですし、日本の知見も役に立っているという所もどんどん宣伝してもらうと共感ポイントとなると思います。アフガニスタンなど長らく内戦で苦しんでいる所は防災が優先分野にならない傾向にあるので、政府任せでは難しく、NGOが居るからこそ、防災を含めた開発になるのだと感じます。NGOが居ないとそういう動きに絶対ならない。アフガニスタンの様な困難な現場で、支援を長く届ける事が難しいか知っている人は少ないですが、CWS Japanさんはそういう現場で防災に取り組んでいる。だからこそすごいと思いますし、是非長く続けて頂ければと思っています。また、パートナーシップによって技術やサイエンスと現場を掛け合わせ、Build Back Betterを実践している所も素晴らしいと思っています。

また、大学でもSDGs教育が進んでいます。SDGsの17の目標と、大きな理念でもある「No one left behind」という目的がありますが、この目的の部分へのフォーカスが十分でない気がします。難しい課題で、どの社会でも取り残されている人たちが多いし、それを変えるという事は、既存の社会の仕組みに目を向ける事も重要です。そんな中、SDGsの進捗を17の目標に合わせてだけ測っているのが正しいのか、17の目標を達成したらより良い、つまり理想的な社会・世界が達成できるのか、疑問に思っています。だからこそ、SDGsの目的の部分に焦点を当てる必要があると思っていまして、これは特に途上国ではNGOの皆さんの力がないと絶対出来ない点だと思います。私自身以前NGOにいたので、その経験から「貴方たちがいないとだめなのよ」と常に思っていますね。人々が取り残されている現場からの声も聞きたいですし、そこからのアドバイスも欲しいと思っています。是非そういった動きを主導して頂きたいと願っています。