21 12月
  • By CWS JAPAN
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インパクト・サマリーレポート:インドネシア サイクロン・セロージャ緊急人道支援の 事例から

災害概要

2021年4月5日にインドネシア東ヌサ・トゥンガラ州に上陸したサイクロン・セロージャによる豪雨と強風は同地に、洪水、地滑り、鉄砲水などの災害被害をもたらした。支援計画当初は、同災害によって、472,765人が被災し、179人が死亡、271人が負傷、45人が行方不明となっていた[1]。CWS Japanは、同サイクロン被災者支援を2022年1月まで、CWS Indonesiaと連携して実施した。

事業概要

事業実施期間 2021年7月13日から2022年1月19日(191日間)
事業対象地 インドネシア共和国東ヌサ・トゥンガラ州マラカ県におけるサイクロン・セロージャの被災地の内、事前のニーズ調査で被害がひどく、支援の見通しが立っていなかった6村:①Naas村, 西Malaka地区、②Oan Mane村, 西Malaka地区、③Fahiluka村, 中央Malaka地区、④Lawalu村, 中央Malaka地区、⑤Lamudur村, Weliman地区、⑥Kleseleon村, Weliman地区。
活動内容
  • 被災世帯に対する生活必需品と緊急シェルターキット(テント⽤品)の提供
  • 汚染した井戸の修復
  • 災害リスクの評価、ハザードマップの作成、防災アクションプランの作成

目的

本調査の目的は、被災した地域の多様な関係者を対象に、CWS IndonesiaとCWS Japanによる支援活動の効果や支援活動を終えて以降の効果の持続性を確認し、またその持続性を促している要因を分析することである。特に、①防災アクションプランに記載の計画事項について、被災コミュニティが主体的に取り組む動機付けとなる要因は何か、また②被災コミュニティおよび地域関係者にとってレジリエンス(強靭性)とは何かをインタビューした。なお、本調査は、支援活動を完了して1年後のタイミングで実施した。

結果

考察1

防災の文脈におけるレジリエンスの定義は、政府関係者[2]と被災コミュニティの人々の間で違いがでる傾向がある。

レジリエントな状態とは?

  • 政府関係者の回答:コミュニティのエンパワーメントを重視。災害への脆弱性の軽減のために必要なことは、コミュニティの間で災害リスクへの理解などの意識啓発がなされること、防災に対する教育が強化されることに重きが置かれる傾向がある。
  • 被災コミュニティの回答:建物や堤防などのインフラ設備といったハード面での強化を強調する回答が多い。ただし、レジリエンスを阻害している脆弱性について聞くと、貧困、高齢者や障がい者の食料不足などといった社会経済的な脆弱性が挙げられた。
考察2

2つのギャップ

  • 政府関係者と被災コミュニティ間での災害リスクへの意識のギャップ:政府は災害リスクを理解し、リスクの軽減を通じて、災害による損失を少なくすることに意識が向いているものの、被災コミュニティの人々は未だ全般的に災害は運命、もしくは与えられるべくして与えられたものという意識がある。
  • 政策関係者間の防災の意識のギャップ:防災の取組に直結しないと認識されるAgriculture Officeは自らの所掌が防災・減災に貢献しうるものという理解には至っていない。
考察3

仙台防災枠組みに照らし合わせて

下の記の図表は、回答者のレジリエンスの定義および脆弱性の定義を聞き取った際に、仙台防災枠組み[3]の4つの優先行動のうちのいずれに該当するか示したものである。最も口にされたのが、災害リスクへの正しい理解であった。

考察4

なにを脆弱と捉えるか

インドネシア政府の協力のもと、Asian Disaster Preparedness CenterおよびUN Office for Disaster Risk Reductionが作成した「Disaster Risk Reductionin Indonesia Status Report 2020」に記載の同国が抱える脆弱性の種類に照らし合わせて、回答者が脆弱性として捉えている主な要因を分類した。

その結果、脆弱性として認識しているものとして最も多かった回答が、品質の高い家屋/住居へのアクセスの乏しさおよびインフラ設備の未整備であった。品質の高い家屋/住居へのアクセスについて言及しているのは村政府やコミュニティのメンバーなどの草の根レベルであることがほとんどに対して、インフラ設備の整備に関しては、村/コミュニティレベル問わず言及された。

考察5

問題解決を自力で成功した経験・実績の有無

調査対象の2つの村において、伝統的な慣習や土着宗教による影響力が小さくなっていると認識されている。それと比較して、どちらの村においてもカトリック教会の活動が活発である傾向は共通している。ただし、いずれの慣習や宗教の優位性に限らず、平時からさまざまな問題解決に成功した経験・実績が蓄積されている村の方が問題解決に際する外部者への依存度が低い可能性が高い可能性が高く、したがって防災アクションプランへのコミットメントが高い可能性が示された。特にコミュニティ内のキーパーソンを通して、複数の組織やセクターを越えて、交渉できる人物がいる場合は、その人を中心にコミュニティの団結力を高めることができる可能性も秘めている。

今後の展望/課題

  1. 「災害にレジリエントなコミュニティ」について、対象コミュニティ内で共通認識を醸成させ、レジリエントになることがどのように日々の日常生活において影響があるのかを様々な視点から明確化にすること、そしてコミュニティの抱える様々な脆弱性の認識を考慮した上で、災害リスク軽減の道筋を描くことが、関係するアクターの当事者感を高めるきっかけになる。
  2. 明文化されていないルールや慣習、地域のキーパーソンを中心とした働き、宗教的な活動など、既存の問題解決の仕組みを活かし、現地の慣習・文化を尊重しながら効果的・効率的に災害リスク軽減の取組を導入する可能性についても、コミュニティのオーナーシップを底上げするために検討が必要である。
  3. 防災の取組の足並みをそろえるために、被災コミュニティとさまざまなステークホルダーとの協働を可能にし、これらの防災に関わる人々が意見を交わし、情報を共有できるプラットフォーム(DRR Forum)を活用しながら、防災における縦と横の連携を強化していくことが重要である。

[1] AHA center, Tropical Cyclone 26S (Seroja) Nusa Tenggara Islands,Indonesia | Flash Update #3,13 of April 2021.
[2] 政府関係者とはここでは主に、Planning Agency in Malaka District, District Agriculture OfficeおよびDisaster Countermeasure Agencyを指す。
[3]仙台防災枠組みとは