29 5月
  • By CWS JAPAN
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パキスタン南部にて干ばつ対策防災事業を実施しています

気候変動の影響によって干ばつ災害が世界で多発しています。戦後最悪の人道危機の一因が干ばつ等による食料危機で、特にアフリカや南アジアでその影響が顕著です。2016年の世界における総被災者数(約5億6400万人)のうち半数以上が干ばつによる被災者となっています。

パキスタン南部でも干ばつの影響は拡大していて、慢性的な水不足に常に苦しみ、乱開発による地下水の汚染や、土地特有の塩害により水の確保に非常に苦労しています。既存の井戸の8割で水質汚染が確認されているという報告もあり、約4割の子どもたちが未就学で、医療施設における患者は女性や子どもが多いとの報告もあります。安全な飲水へのアクセスが十分でない事から生じる下痢、栄養不足、貧血などがこうした女性や子どもたちに多い疾患です。現地の人々の生計に欠かせない家畜も多大な影響を受けており、気候変動による降雨パターンの変化から、より遠隔地へ牧草を求めて移動せざるを得ない家族も多く存在します。干ばつによる水不足は農業に従事する貧困層の収入を更に減少させ、結果として自宅における衛生環境の悪化や栄養不足という負のスパイラルに繋がっています。

看過出来ない社会問題に発展している干ばつですが、水が少ない所で何が出来るのかを昨年の調査からパートナーである国土防災技術㈱様と模索してまいりました。対象地では大前提として、安全な飲料水や農業水の確保が喫緊の課題ですので、水利効率化や農法改善を重要視し、プロジェクト立案を行いました。本プロジェクトは日本国外務省NGOは連携無償協力資金によって本年1月から実施されています。

具体的な事業目標としては、パキスタン南部シンド州の最貧困地区の一つであるウマルコート県において、水利効率化に向けた情報がコミュニティへ提供され水利・防災意識が向上、貧困層における飲料水へのアクセスが改善、干ばつ影響地域において農業用水・対応技術へのアクセスが改善という成果を目指しています。また、持続発展性を担保する為に、プロジェクト内容を現地コミュニティが維持・管理出来る体制を同時に整える事も目指しています。

水利用の効率化においては、まず水源の特定の技術が不可欠です。本事業では人口衛星の画像解析や地形解析による水脈の位置の大まかな特定、ERS(水脈電気探査)による精度の高い水脈の特定、定期的な各井戸の水位のモニタリング及び気象データの分析、洪水浸水地域の特定を行い、更なる水利マネジメントに活かすとともに「水利・防災計画」 を作成し、この作成プロセスをモデル化する事を目指します。2019年4月には現地にて第一回目の技術移転ワークショップを行い、現地の行政・大学・研究機関等、干ばつ対策に取り組むステークホルダーが集まり、今後の協働も話し合われました。

この事業を通じてCWS Japanとして達成したい事の一つに、昔から日本に伝わる水資源の管理方法を効果的に現地に伝えていくという事です。日本は自然災害も多いですが、水資源は豊富にあり、昔から定期的な水量のモニタリングや資源の有効活用化を進めてきました。ハイテク技術ではないからこそ、現地に伝えられるサイエンスがあるのだと思っておりますし、例えば井戸から水を組み上げた時にその井戸が再び満たされる時間を測る事によって、その水脈のポテンシャルを判定するというやり方は非常に合理的と言えます。日本の水利用は、江戸時代までは稲作農業中心、江戸時代から昭和に渡り工業用水の利用増大に伴う近代水道の整備、そして近年では高度成長と人口増加による需要増大に対応した水資源の開発の歴史でした。日本でも渇水が問題となるなど、水に対する取り組みは重点的に行われてきましたので、その歴史やノウハウを少しでもパキスタンに伝える事が出来ればと考えています。

文:事務局長 小美野剛